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守和の観た読んだ観た

上総屋:飯田守和の感想録ブログです。 (リンク先から徐々に転載もしつつ)アレコレと感想を綴っていきたいと思います。

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スティーブ・ヤーブロウSteveYarbrough『酸素男』TheOxygenMan


『酸素男』TheOxygenMan
訳:松下祥子
ハヤカワ文庫
平成22年2月27日読了
描写がシッカリとしていて読み応えが有ります。行間と言うか描かれていないシーンも観えるようで、自分が物語の中に居るような、それ以上に物語の空気にねっとりと包まれているような緊張感が有ります。サラサラと筋を追うような走り読みには向いていませんし、許されない文章だと思います。
ただ作品としてはかなりシンドイ。
今とは違う自分になりたいとはガキの頃には誰でも思うコトなのでしょうが、そういう思いを持ちつつ、自分にふさわしく感じられない場所でもがく高校時代のエピソードは痛々しいほどです。そしてその時のボタンの掛け違い、または別れ道での誤った選択が未だに膿を出し続ける傷のようにジグジグと痛み続ける現在もまた辛い。
この二つの時代のエピソードが交互に描かれ最後に全体の構図が見えてくる…という仕組みもですが、なにより作品そのものの力で惹きつけられ、辛い話なのに目が離せません。
一つだけ不満を言うと訳者はアメフトに疎いか、少なくとも好きではないのではないかしらん?読んでいて判り辛かったので。
このまま映画にしても面白いんじゃないでしょうか?監督はショーン・ペンで(そういえば『インディアン・ランナー』もきつかったなぁ)。
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山崎豊子『沈まぬ太陽』


『沈まぬ太陽』全5冊
新潮文庫
平成20年6月6日読了
酷い出来でビックリしました、これが売れただけでなく評価も高いなんて信じられないなぁ。
まず文章に味が無く、読んでいて歯ごたえと言うか読後の充実感というか、そういうものがまるで無い。偏見の誹りを覚悟で言うと新聞記者ならではの書き捨て文章で、とても文章表現を生業にしている人間の提供するレベルではない。
話の展開もまたお粗末。「アフリカ編」では過去と現在を行ったり来たりするのですが、未整理なまま書いている気がします。読んでいてこんがらがるもの。結局文章に惹き付けられるモノが無いのでコチラの集中力が散漫になっているんでしょうけど。
続く「御巣鷹山編」では事故の緊迫感などは一切無く、ただ取材して得たものを垂れ流しているだけでした。感動した方も多いと聞きますが、ソレってこの小説にではなく引用された資料に対してなんじゃないか知らん?トドメの「会長室編」に至っては人間関係などがグチャグチャ。とにかく思い付きで書き散らかしています(そうとしか思えない)。
そして全ての話に説得力が無い。
作者本人の言によると「この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基づき、小説に再構成したものである」んだそうな。
それにしちゃあ、お粗末に過ぎなくないか?
一所懸命に勉強し資料も相当集めたのでしょうが、まるで未消化のまま垂れ流している感じです。読んでいて体温が無いんですよね、まるで借り物。覚えたての単語が上滑りしています。アーサー・ヘイリーの凄さが判りました。それだけは収穫。
とにかく大分なページの割りに薄っぺらな作品で、『白い巨塔』よりも更に酷い出来でした。もう船場モノ以外は読まない方が懸命ですね、少なくとも僕は。
【余談】
ネットで検索して知ったのですが、前述の通り本作は「この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基づき、小説に再構成したものである」と作者がわざわざ断っているが為に批判され論争も有ったそうな。曰く“事実に基づき”と言いつつ経歴からソレと判るモデルが登場人物とはまるで異なる、曰く取材は一方的で他方の意見には最初から耳を貸していない等々。「日航側が取材を拒否した」と言いますが、先入観でガチガチの相手なら避けたくもなるわなぁ。
作中での主人公は純粋に英雄でありその仲間は善意と誠意の塊であると描きつつ、対立する会社側の人間は爬虫類だのナンのと軽蔑すべき完全なる悪党(作者の好きな表現で言うと魑魅魍魎)として描写されているのですが、なるほどココまで悪し様に言われて挙句にコレが事実であるなんて言われてはモデルとされた方はタマランよなぁ。
更に他の人はこの辺りどう思っているのかと興味が湧いたので、再びネットで感想を探してアレコレ読んだのですが、ノンフィクションとして読んでいる方が結構いらっしゃいます。
また「作者がナンと言おうと所詮は小説であり、つまりフィクションである」と判った上で感想を書いている方もおられますが、そういう方ですら物語の舞台である国民航空を日本航空だと書いています。
つまりフィクションであると言いつつ実在の日本航空として読んでいるのであって、結局は作者の思う壺にハマっているのではなかろうか?
確かに未曾有の事故を起こし多数の人命を失わせた会社の責任は重いですし、遺族の悲しみはどれほど想像しても及ばないとは思います。また昨今の遺品の取り扱いに関しての報道(遺族の意向を無視して勝手に焼却しようとしていた云々)も、酷い会社だと思わせて余りあります。
しかしソレとコレとは話が別では無いですかね。そういう会社に対してならばどんなコトを書いても良いのか、と疑問が残りました。
航空会社に人間愛を求めるのも結構ですが、自分はどうなんでしょうか?
【関連作品】
吉岡忍『墜落の夏』コッチを読めば充分…かも。

山崎豊子『白い巨塔』


『白い巨塔』全5巻
※発表当時は『白い巨塔』が1~3巻であり、4・5巻は『続・白い巨塔』にあたる。
新潮文庫
平成20年2月17日読了
正直一言で言って「そりゃ無ぇだろう?」と言う作品。
母親が以前に某国立大学の教授選挙がいかにエゲツナイかを見ていたそうで、その話は少しだけ聞いていました。ま、小説だから誇張しているとは言えやはりドコでも酷いモノだなと読んだのですが、面白いのはソコまででした。
※以下本意では有りませんが粗筋を紹介しつつの感想です。
これから読もうと思っていらっしゃる方は読まないコトをお薦めします。
【教授選挙編】
面白いのは正直ココだけ。
天才的な外科手術の腕前を誇り次期教授を目指す財前助教授と、退官後にも影響力を維持したいが為に財前外しを画策する東教授の二人が中心となって泥仕合を展開します。細かい紹介は避けますが、浪速大学OB会や地元大阪の医師会をバックにゼニで攻める財前側と、東都大学閥を利用して中央とのコネ(権力)で攻める東側と正直ドッチにもウンザリさせられます。
ウンザリしつつ面白く読むんですけどね。
僕自身は関東の人間ですが奇麗事を言ってうわべを取り繕うとする東側に、よりウンザリさせられました。財前が勝ってホッとしましたよ。
【国際会議出席編】
ココから一気にしらけます。
どうして舞台が海外になると急に小学生の作文のようになるんだろう?一々アソコでナニしたココでカニした…なんて読者としては鬱陶しいだけなのに、妙に細かいんですよね。まるで「観光旅行ではありません、取材です」と税務署に向けて書いているようで退屈です。
【医療裁判編】
ドイツから帰国した財前を待っていたのは誤診裁判だった…というのですが、原告側の言いがかりに思えなくも有りません。手術のしっ放しで様子を見ようともせず、更に容態が急変しても放置され挙句に死なされたら、そりゃぁ訴えるでしょうが、でもなんかなぁ。
作者のご都合主義も甚だしく有能かつ実力者である筈の財前側弁護団が無能の極みで、良くこんなので被告側が勝てたよなぁと呆れました。
【医療裁判控訴審+学術会員選挙編】
ココからが蛇足です。
小説家の社会的責任だかナンダカに目覚めて書いたのだそうですが、完全に無駄に思えます。
登場人物たちが自分の薄っぺらな正義感で行動するのは良いとして、作者がソレに乗ってしまうのはイカガナモノカ?
例えば最後の最後に今までの証言を覆して財前を裏切り「真実」を証言する研修医が居るのですが、コレって作者の言うように止むに止まれぬ正義感から真実の叫びを上げたのではなく、単に責任を全て転嫁されそうなので保身の為に寝返ったに過ぎない。
もちろん人間なんて弱い生き物で最後には告白したのだからマシだろうと言えば言えますが、作者のスタンスは違うんですよね。なんかもっと冷たいというか。
最後に面倒くさくなったかのように財前を殺してハイサヨウナラ♪じゃ、やりきれないなぁ。
【関連作品】
映画化作品『白い巨塔』

山崎豊子『女の勲章』


『女の勲章』
新潮文庫
平成19年4月16日読了
期待していた展開と違ったのはコチラの勝手としても、全体的に期待していた程ではなかった。
個々の登場人物に関して言えば書き込み不足のモノあり、“お約束”のままのモノあり、で生き生きとしていない。また服飾業界についてや海外の描写についても勉強し過ぎで、ソレが生地のママ出ているのが上滑りさせている。
諸般の事情からそう簡単には行かないと言うコトは判るが、もっと自分の中で熟成させてから書いた方が良かったんじゃないかしらん?と残念。

山崎豊子『女系家族』


『女系家族』
新潮文庫
平成19年5月16日読了
※最初に注意。文庫裏の粗筋紹介ですが、下巻のソレで結末を書いてしまっています。事前にこの部分を読まないコトをお薦めします<※
大阪船場を舞台に老舗の遺産相続争いを描いた作品なのですが、とにかくドイツもコイツもえげつなくて良かった。しかもソレが妙にリアルで自分が当事者でも似たような行動に出ただろうと納得せざるを得ない説得力でした。
もちろんドロドロとした人間関係も出て来ますが、むしろ面白いのは大阪の風俗で外国文学を読むのに似た楽しさでした。セリフだけでなく地の文にも混ざる大阪の言葉遣いは心地良い。着物や料理について書かれていることは半分以上理解出来ていないとは思いますが、それでも雰囲気は充分に伝わって来ました。この辺りに気合を入れたらかなり見応えのある映像作品が出来るのではないか知らん?
ただ注文をつけるとしたらラストの仕掛けの見せ方をもう一工夫して欲しかったように思います。下品なサービスに走る必要は有りませんが、もう少し劇的でも良かったかと。例えば上質の推理小説のように。

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