
『沈まぬ太陽』全5冊
新潮文庫
平成20年6月6日読了
酷い出来でビックリしました、これが売れただけでなく評価も高いなんて信じられないなぁ。
まず文章に味が無く、読んでいて歯ごたえと言うか読後の充実感というか、そういうものがまるで無い。偏見の誹りを覚悟で言うと新聞記者ならではの書き捨て文章で、とても文章表現を生業にしている人間の提供するレベルではない。
話の展開もまたお粗末。「アフリカ編」では過去と現在を行ったり来たりするのですが、未整理なまま書いている気がします。読んでいてこんがらがるもの。結局文章に惹き付けられるモノが無いのでコチラの集中力が散漫になっているんでしょうけど。
続く「御巣鷹山編」では事故の緊迫感などは一切無く、ただ取材して得たものを垂れ流しているだけでした。感動した方も多いと聞きますが、ソレってこの小説にではなく引用された資料に対してなんじゃないか知らん?トドメの「会長室編」に至っては人間関係などがグチャグチャ。とにかく思い付きで書き散らかしています(そうとしか思えない)。
そして全ての話に説得力が無い。
作者本人の言によると「この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基づき、小説に再構成したものである」んだそうな。
それにしちゃあ、お粗末に過ぎなくないか?
一所懸命に勉強し資料も相当集めたのでしょうが、まるで未消化のまま垂れ流している感じです。読んでいて体温が無いんですよね、まるで借り物。覚えたての単語が上滑りしています。アーサー・ヘイリーの凄さが判りました。それだけは収穫。
とにかく大分なページの割りに薄っぺらな作品で、『白い巨塔』よりも更に酷い出来でした。もう船場モノ以外は読まない方が懸命ですね、少なくとも僕は。
【余談】
ネットで検索して知ったのですが、前述の通り本作は「この作品は、多数の関係者を取材したもので、登場人物、各機関・組織なども事実に基づき、小説に再構成したものである」と作者がわざわざ断っているが為に批判され論争も有ったそうな。曰く“事実に基づき”と言いつつ経歴からソレと判るモデルが登場人物とはまるで異なる、曰く取材は一方的で他方の意見には最初から耳を貸していない等々。「日航側が取材を拒否した」と言いますが、先入観でガチガチの相手なら避けたくもなるわなぁ。
作中での主人公は純粋に英雄でありその仲間は善意と誠意の塊であると描きつつ、対立する会社側の人間は爬虫類だのナンのと軽蔑すべき完全なる悪党(作者の好きな表現で言うと魑魅魍魎)として描写されているのですが、なるほどココまで悪し様に言われて挙句にコレが事実であるなんて言われてはモデルとされた方はタマランよなぁ。
更に他の人はこの辺りどう思っているのかと興味が湧いたので、再びネットで感想を探してアレコレ読んだのですが、ノンフィクションとして読んでいる方が結構いらっしゃいます。
また「作者がナンと言おうと所詮は小説であり、つまりフィクションである」と判った上で感想を書いている方もおられますが、そういう方ですら物語の舞台である国民航空を日本航空だと書いています。
つまりフィクションであると言いつつ実在の日本航空として読んでいるのであって、結局は作者の思う壺にハマっているのではなかろうか?
確かに未曾有の事故を起こし多数の人命を失わせた会社の責任は重いですし、遺族の悲しみはどれほど想像しても及ばないとは思います。また昨今の遺品の取り扱いに関しての報道(遺族の意向を無視して勝手に焼却しようとしていた云々)も、酷い会社だと思わせて余りあります。
しかしソレとコレとは話が別では無いですかね。そういう会社に対してならばどんなコトを書いても良いのか、と疑問が残りました。
航空会社に人間愛を求めるのも結構ですが、自分はどうなんでしょうか?
【関連作品】
吉岡忍『墜落の夏』コッチを読めば充分…かも。
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